歳時記|12月 師走(しわす)

暮らしの中から生まれたご馳走

豆腐とひとえに言っても絹や木綿、寄せ豆腐など固さや製法がさまざま。
雪国の加賀地方で有名なのは、縄でつるすこともできるぎゅっと身がつまった固豆腐。秋の終わりに収穫した大豆は、寒い季節のハレの日の行事ごとに豆腐に加工し、持ち運びしやすく、保存がきくように水分が少なく固いのが特徴。栄養たっぷりこの時期の大切なたんぱく源だったのでしょうね。

食べ方は、煮こむ、焼くなど、生で食べずに熱を加えて調理します。なかでも田楽は白山地方の名物のひとつで、焼くのが通常ですが、この地方では焼いた後、味噌汁に砂糖を加えたものに豆腐を入れ、煮て味をしみこませるという独特なもの。水分が少ない豆腐ですから、味のしみた豆腐はじゅわっと口の中でやさしい味わいが広がる、この季節にオススメのご馳走です。自然の恵み、そして、暮らし知恵からの産物をありがたく頂戴して、寒い冬を乗り切りましょう。

鍋をつつく

今では、冬の定番メニュー鍋もの。ひとえに言っても、湯豆腐やすき焼き、キムチ鍋におでん、それぞれの家庭、地域によって、さまざまな味があります。食卓の中央に鍋を囲み、それぞれが好きなように自分の箸でつつくスタイルは近年になってから。

古くは縄文時代から歴史がある鍋は、銘々に取り分けていただくスタイル。鍋のようだけど、煮ものや汁ものとなります。昭和30年代以前までの囲炉裏がある地域では、食事の時間になると、その家の主婦が杓子で取り分けていました。昔は家長の権力がとても強かった一般家庭でも、勝手にとることは許されていなかったそう。食べもののことに関しては主婦に全てまかされていたそうです。

大切な食糧を家族全員に分け与える権利を任せられるというのは、昔ならではの一家をささえるしくみ。仕事の役割分担がはっきりとしていた歴史ですね。好きなものを好きなように食べれるって、とっても贅沢。鍋のルーツを知ると次の鍋時間はつつきあうのが、ひときわ嬉しくなるお話です。