歳時記|11月 霜月(しもつき)



じゅわっと味わう、いなり寿司

行楽日和なこの季節によく食べられるいなり寿司。わたしの家では、運動会で必ず出てくる想い出の味でした。

シンプルで手軽ないなり寿司ですが、歴史をさかのぼると、およそ180年前に、江戸で誕生したと言われています。ごはんが手につかないように油揚げを巻いて食べたのがはじまりです。

いなり寿司と呼ばれるようになったのは、稲荷神社には油揚げを供えており、神様の使いであるキツネの好物が油揚げだったことに由来します。また、稲荷神社は全国に約3万社あり、その土地土地に郷土いなりの文化が芽生えました。

寿司のように、保存の効く料理は、昔、冷蔵庫が無かった時代に庶民に広がりました。地域によって形、味の濃さに変化をもたらし、郷土感あふれる日本の食文化となり、今も各地に根付いています。神様の使いの好物という縁起の良さも一役買って、手軽なフィンガーフードとして重宝されていますよね。

その歴史や背景などを知ると、また一段と奥深い美味しさが、じゅわっと甘く広がります。



栄華盛衰

愛知でも山から里へと進む紅葉の便りが届いています。岩手平泉中尊寺で見た雨上りの朝もやの紅葉の心に残る情景を思い出します。水分を含んだ葉が、真紅に光り輝いて周りの薄紫の空気と溶け合っている姿は、極楽浄土を思わせます。薄暗い中で艶っぽく輝く金色堂の仏像も同じ空気があり、平安に栄えた奥州藤原氏の栄華盛衰を肌で感じた気がしました。

秋に紅葉するのは、気温と日照時間が変わり光合成によるデンプン生成を休止して、緑色のクロロフィルを壊すからです。緑の下に隠れていた黄色のカロチノイドが可視化されると黄葉となります。赤くなるのは、残されたデンプンが、赤色色素のアントシアニンに変性されるからです。冬の乾燥した環境で葉からの水分蒸発を減らし、更に負荷を減らすために落葉します。

今立ち枯れしている大豆畑の大豆は、夏の枝豆の実は、デンプン質でゆでて美味しく食べれます。落葉と共に土中の根粒菌で定着された大気中の窒素が、たんぱく質となってデンプンと置換されます。窒素固定は、植物の中で大豆が唯一で、正に自然の叡智です。どれも生き抜くための本能であり、環境に適応できたが故の姿です。
生命に感動です。